最後に笑うのはあたしのはず

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 長美は睦応を献身的に支えた。約束した中国語の指導は勿論のこと、食事を作ったり、部屋の掃除など勉強に集中できるようにしたのである。 その姿を見た隣の住人は長美を通い妻と思うようになっていた。  そして…… 睦応は中国のLCCに見事合格を果たした。大手航空会社の元パイロットの肩書に加え、英語と特に中国語が堪能であったことが理由である。無論、長美の指導による賜物である。  睦応が生活に落ち着きを取り戻した頃…… 長美は空港のラウンジに呼び出された。睦応はパイロット姿で長美を待ち構えていた。 「なんです? こんなところに呼び出して?」 「唐突なんだけど、本当に長美ちゃんには感謝してるよ。こんな俺なんかを献身的に支えてくれて」 「いえ、あたしに出来ることをしただけです」 「生活も落ちついたし、給料も安定してきたからさ…… 樹璃とまた付き合おうと思ったんだ。俺の綺麗事でこっ酷く捨てちゃったしさ」 「そう……」 その瞬間、長美は絶望の縁へと立たされた。あたしは最後までお姉ちゃんに勝てないのか! 樹璃を捨てた男を手に入れて、これまで負け続けたカリを返すつもりだったのに! たったそれだけのために男を愛した自分が間違っていた。 自分の愚かさと悔しさで涙が溢れそうになる。このままラウンジから逃げ出そうと踵を返した瞬間、睦応は長美を抱きしめた。 「あ…… 赤芽さん?」 「長美ちゃん…… ずっと一緒にいて欲しい! 結婚して下さい!」 「え…… でも、お姉ちゃんは?」 「樹璃には申し訳ないことをした! でもそれ以上に長美と一緒にいたいって気持ちの方が強いんだ!」 ああ、あたしは最低だ。睦応を姉に勝つためだけの武器にしてしまった。しかし、今は心から愛している。長美のその気持ちに嘘はない。 「でも、あたしお姉ちゃんみたいに美人じゃないよ? いいの?」 「いいよ! 俺にとっては長美が一番美人だ!」  こうして、長美と睦応は結婚することになった。両親であるが、姉から妹に乗り換えるとは何事だと渋い顔をしたものの、睦応の「最も辛い時期に支えてくれた長美さんに惚れてしまいました」の一言で納得するのであった。 樹璃であるが、その事実を知って糸の切れた操り人形のようになってしまった……  これまで姉に負け続けの人生だった妹はやっとのことで勝ちを手に入れたのである。
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