晴れた朝

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晴れた朝

 明け方近くまで続いた雨は上がり、澄み切った青空が広がっている。学校や会社に向かう人々の顔も心なしか晴れやかだ。 「おーい(あきら)、待てよ!」 「ああ、おはよ。いやぁ昨日はすげぇ雨だったな」 「だなぁ。テスト前だってのによぉ。うるさくて全然寝れなかったよ」 「そっかぁ? 俺は雨の音、わりと好きだけどなぁ」  彰と呼ばれた少年はそう言って笑った。煌めく日差しの中、二人の少年が無邪気に駆けていく。そこにサッと一陣の風が通りすぎ、打ち捨てられた古新聞が舞い上がった。色の変わった紙面からしてずいぶん昔のもののようだ。その片隅に、ある事件が取り上げられている。要約するとこんな感じだ。 ――殺人事件の最重要参考人、死去。  ある大雨の朝、女性の死体が見つかった。たまたま尋ねてきた知人が鍵のかかっていなかったドアを開け部屋に入ったところ、両胸がえぐり取られた惨殺体を発見。その傍らには息子であるAが包丁を片手に呆けたように座り込んでいた。彼は重要参考人として取り調べを受けたが錯乱状態で事件の真相は不明。  Aは精神を病み長らく入院していたがほとんどの時間をうつらうつらと眠って過ごし、時折不意に覚醒しては「明日テストなんだ」などと叫んでいた。  その後、奇しくも母親が殺された日と同じく激しい雨の降る中、病院のベッドで亡くなっているのが見つかった。享年三十六歳。死に顔は穏やかだったという。 了
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