雨が、止むとき。

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 そう、今日も変わらず雨が降っている。 「よりによって、今日が雨なんてね」  由加里はいつかの白いワンピースを着ている。  その片手にはトランクがひとつ。中身は俺の部屋に置いていた、数多くもない彼女の私物だ。 「お気に入りのワンピースなのに、濡れちゃう」 「別れの日を、お前は、お気に入りの服で迎えるのか」  俺は由加里に背を向けたまま、ここそとばかりに皮肉を投げかける。それはせめてもの虚勢だと、自分は知っている。 「そうよ。今日だって、私には意味ある特別な日なんだから。あなたにとっては、そうでないかもしれないけど」  由加里は冷めた声でそう言葉を放ってきた。 「俺にだって、そうだよ」  だが、俺のその言葉は微かすぎて、聞こえなかったと思う。  その代わりに俺が大きな声で言ったのは、別のことだ。 「濡れるのが、嫌なら、今日出て行くことは、ないんじゃないか」  そう言った俺の背後で、ばたん、とドアが閉まる音がした。  ついで、かんかんかん、とアパートの階段を降りて行く足音も。    それがなんとも、軽やかに楽しげにリズミカルに聞こえて、俺は思わず憤りのままに、壁を蹴った。  がつん、と言う音の後に壁を見てみれば、築20年の安アパートの壁らしく、そこには、べこり、とへこみが出来ていた。  ひとりになった部屋に、雨の音が響く。  だけど、もう、この雨音は、誰をも、俺のもとに引き留める呪詛になることは無い。 「今日は雨だからな」  俺は独り言つ。  もはや、その言葉が何の意味も持たないことを知りながらも、口にせずにはいられなかった。  雨はいつか止むものだ。 了
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