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荷解きを軽く済ませると、既に夜になっていた。家には一通りの家電はあるけれど、食べ物はない。魔界から持ってきたものは列車を降りるときに全て置いてきてしまった。
スマホで調べてみると、すぐ近くにコンビニがあるとの情報があった。日本の現金は多少持参してきたので、コンビニに行って何かを買おう。
日本は今、春という季節らしい。扉を開けると来たときよりも寒くなっていた。コンビニまで歩く道で、何人かと通りすがったがなんだかジロジロ見られている気がして少し怖くなる。ヴァンパイアは見た目ではよく分からないし、そもそも日本人男性に見えるように擬態している。変なところはないはずなんだけど。そんなことを思いながら住宅街の道を歩く。
コンビニは夜でも煌々と光っていた。何台か車が止めてあって、そのうちの一つの車には運転席で寝ているおじさんがいた。
コンビニに入ると、その眩しさに目がチカチカする。魔界のスーパーは早めに閉まるところが多いし、そもそも世界全体がこんなに明るくない。スーパーの中なんてなおさらだ。日本は眩しい国だなぁと思いながら店内を巡る。
最初の陳列棚は雑誌や日用品が並んでいたが、後の二列はこれでもかと言わんばかりに食べ物が並んでいる。お菓子にカップ麺、山ほどあるジュースとアルコール。アイスや家で簡単に調理できるパックや食材、お総菜にパン。
胸が躍る。あぁ、日本に来たんだ! 大学で行ったあの一度きりで、僕は日本の食べ物が好きになったし、日本が好きになった。憧れはいつだって色褪せず消えなかった。忘れることのない味、香り。魔界の食べ物とは違う美味しさに感動したあのとき。今度は仕事としてここにいられるんだ。こんな天国みたいなところに!
買ってすぐに食べられそうなものはどれかと惣菜コーナーを見てみる。おにぎりがまばらに置いてある上に、カップのみそ汁を見つける。みそ汁! あのみそ汁がカップで、と思わずそのうちの一つを手に取った。一番安価なあおさのみそ汁。お湯を注ぐだけでみそ汁ができるという。何てことだ、あれがお湯を注ぐだけでできるなんて。
みそ汁を買うなら主食は何にしようか。やっぱりおにぎりだろうか。カップみそ汁がすぐそばに置いてあるのもそういうことなんだろうか。その組み合わせや陳列の理由を知りたくて、残っていたツナマヨおにぎりと、カップのみそ汁をレジまで持っていく。
「お箸おつけいたしますか?」
店員さんに聞かれて、そうだったと思い、頷く。こんな風に聞いてくれるなんて親切だなぁ。バッグに会計済みの物をいれて、支払いを済ませた。外に出ると、涼しげな風が漂っていた。
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