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 本当は、彼女の言う通り、僕の心はあるコトに囚われていた。コトというよりヒトなのかもしれない。雨の中の少女。僕はそう呼んでいる。  雨が降ると現れる女の子。どこの誰なのか分からないし、喋ったこともない。だから名前も分からない。唯一分かることは、見かけない制服を着ているので、他校の生徒だということくらいだ。  僕が彼女を初めて見たのは、梅雨に入った日だ。その日は日曜日だった。僕の日曜日の午前は、市営図書館へ行き、一週間分の本を借りることだ。室内を好む僕にとって天候は関係なかった。今朝も、薄いブルーの傘を差し、図書館へ向かった。  僕の家は団地にある。山を切り崩した傾斜地に造られた団地だ。だから坂道が多い。市営図書館は、団地の入り口に建っているため、山の麓まで下っていかなければいけない。  そして、下り坂の途中にある公園の築山(つきやま)の頂上で、傘も差さずに一人佇む彼女を見つけた。  この瞬間から、僕の心は、彼女が纏っている不思議な雰囲気に――いや、彼女の存在そのものに、囚われたのかもしれない。 ※築山(つきやま):子供の遊具として公園などにつくられた人工的な山
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