解けない魔法

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 そんな菖蒲の複雑な乙女心などまったく察していないのだろう、この爽やかなイケメンは、事もあろうに、人好きのする完璧なキラースマイルを携えてとんでもない暴挙に出た。そして菖蒲の乙女心をズタズタにしたのである。  もちろん、よかれと思っての言動だと重々承知しているし、この男に悪気なんて全くないのはわかっている。だけどーー 『はい、どうぞ。美味しいガナッシュ(生チョコ)食べてお仕事頑張ってね。それじゃあ』  初対面の見た目女子高校生に対して、小さな子供のお口に『はい。あ~ん』てな具合に、たった今買ったばかりのガナッシュを口に放り込むのは如何なものか。  それに釣られて口を開けてしまった自分もどうかと思うが、あれは不可抗力だ。  もし仮に菖蒲がJKであったとしても、不快でしかなかったと思う。  ーーあれか? イケメンなら何をしても許されるとでも思っているのか?  確かに、キラキラと煌めく笑顔なんて、どこぞの王子様かと見紛うほどだったのは認めよう。  ーーでも、だからって。否、もういい。どうせもう二度と会うことなどないのだから。もう忘れることにする。  菖蒲は羞恥と悔しさで顔どころか小さな身体を紅潮させつつも、何とか笑顔を取り繕うのに全神経を集中させた。  これまでもJKに間違われたことは、ままあることだったため、慣れっこの菖蒲だが、どういうわけか、この時の恥ずかしさと悔しさと言ったらなかった。  その後で、彼が店舗スタッフの間でかねてより噂されていた、週一で来店すると決まってガナッシュを買っていくという謎のイケメンーー通称『ガナッシュ王子』だったのだと知る事になる。
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