解けない魔法

4/7
前へ
/7ページ
次へ
 しかも週末の土曜日の仕事帰り。  同僚にほぼほぼ強制的に連行されてしまった、苦手でしかない合コンでガナッシュ王子ーー神宮寺駿と予想外な再会を果たす事になった挙げ句、その帰りに酔っ払いに絡まれ困っていたところに、彼はヒーローの如く颯爽と現れたのだ。 『俺の可愛い彼女になんか用があるなら代わりに聞きますけど? それに、この汚い手、今すぐ離してもらえませんかね? 目障りなんで』  菖蒲の腕を掴んでいた酔っ払いの腕を赤子の手でも扱うようにして、簡単に捻りあげて撃退してしまったのである。  見た目細身の彼の意外にも男らしい姿を目の当たりにした菖蒲の胸は、この時、どういうわけかトクトクと高鳴ってしまうという、不可解な反応を示した。  自身の不可解な反応に戸惑う余り、酔っ払いが消えた後も、菖蒲は身動ぎさえ出来ずに突っ立っていることしかできずにいたのだが。 『菖蒲ちゃん。手、震えてるけど大丈夫?』  さらに彼は、酔っ払いから解放された菖蒲の、震える手を優しく両手で包み込む。そしてすかさず身をかがめ視線を合わせてくると、小首を傾げ上目遣いで窺ってくるイケメンを前に、男性に免疫のない菖蒲は余計動けなくなってしまう。 『……え? あっ、はい』  それでもなんとか返答した菖蒲の様子に、彼は怖がっているからだと誤認してしまったらしく、思いのほか優しい声音で囁きかけてくる。 『全然大丈夫じゃないみたいだね。心配だから静かなところで休んでから送ってあげるね』  あたかも合コンで女の子をお持ち帰りでもする時の常套句のような台詞だ。  それなのに菖蒲は抗うことなどできなかった。  手慣れた様子で菖蒲の小さな手を引いて歩み出してしまった彼に促されるままに脚を踏み出すことしかできない。  まだ知らぬ未知の世界へと誘われるようにして、すぐ近くに行きつけの店があるからと菖蒲が連れて行かれたのは、しっとりと落ち着いた雰囲気の『Charm(チャーム)』というBARだった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3151人が本棚に入れています
本棚に追加