真夏の夕立ちで思い出す

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真夏の夕立ちで思い出す

 自分が少しずつ削り取られてくる暑さ。  日が沈んでも、まとわりつく熱気。  夕焼けが入道雲を照らす。  明滅する稲光、轟く雷鳴。  それは、世界終りの絵。  私は昔、宇宙の本が好きだった。  物心ついた時から、丸い地球が自転しながら太陽をめぐっていることを知っていた。多くの子どもたちと同じように。  しかし太陽すら宇宙の中心ではなく、銀河系の片隅で射手座の方向へ向かって移動していると知った時、喜びに満ちた衝撃を覚えた。  あのころ。  NASAが放った宇宙探査機、二機のボイジャーは外惑星を、次々と攻略した。  木星の縞模様は、地球の大気を通してみる望遠鏡の映像とは違い、どこまでも細かく不気味だった。  土星、天王星、海王星の写真を送り届け、地球外知性体へのメッセージを携え、いま太陽系を超えていく。  あのころ。  宇宙番組、カールセーガンの「コスモス」がゴールデンタイムに放送された。  親が番組の書籍を買ってくれた。  人類誕生が、宇宙の年齢からすれば、ほんの数分前のことだと知った。  本はどこかへ消えてしまったが、一枚の絵が忘れられない。  それは、地球の終りを描いたもの。  太陽は、五十億年後、膨張する。  地球は熱せられ、生物は死滅する。  その終末期の地球は──普通のトロピカルアイランドだった。  人類をはじめ哺乳類はとっくに死滅している。  空はどこまでも明るく青く、椰子の木が葉を茂らせていた。  パラダイスにしか見えない地球の最後。  だから怖くて忘れられなくなった。  酷暑の日々が、「コスモス」に描かれた地球の最後を思い出させる。  私たちはいつまで生きられる?  私は生きたい。君にも生きてほしい。  私は、十三年後、北関東を通過する皆既日食を、君と見たい。  そのころは、私も君も呑気な隠居生活を送っているはずだから。  十三年後、皆既日食を見られるだろうか?  日本はまだあるだろうか?  人類はいるだろうか?  大丈夫。  日本がだめでも、人類がだめでも、地球は大丈夫。  なぜなら。  生き物は酸素のない世界に出現した。  地球のすべてが凍り付いても、巨大隕石が落ちてきても、命は続いてきた。  心配しなくていいんだ。  日本がなくても、人類がいなくても。  二酸化炭素が増え熱せられた世界でこそ生きられるものたちが、地球を続けてくれるから。
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