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▲▽▲▽▲
吹奏楽部という名の部活に励んでいた。
私のパートはフルート。
校庭に向かってベランダから、アルペジオを繰り返す。
来年は受験生、なんだよな、私。
先輩が言ってた。
三年の夏休みの宿題は、1教科100ページくらいあるんだって。
みんな志望校とか決めてるのかな。
どうやって決めるんだろ。
まだ来年のこと何に、何考えてるんだろうね。
鬼が爆笑しちゃうよ、何ヶ月先だよ。
でも、そう言っている間に時は過ぎるんでしょ。
いつから考えればいいんだろ。
ふるるー……──かすっ
そんな事考えてたら失敗したじゃない。
銀色のそれを見つめると、映ったのは私の情けない顔だった。
夏って、憂鬱だね。
「あやめ先輩!福井先輩が呼んでます〜!」
「あ、ありがとう、今行くね」
後輩ちゃんに呼ばれてはっとし、私は片付けを始めた。
▲▽▲▽▲
もう、30℃いってるし。溶けるよ。
なんで今年はこんなに早いのさ。
夏の足音で耳が痛くなる。
夏、やだよ。やですーーー!
「夏お断り」ってシールがあったら体中に貼りまくる。
学校行って、乃々果たちとくだらない話して、授業受けて、部活行って、帰宅する。
それだけのことなのに、気づいたら夏の足音が大きくなっていく。
耳をふさいでしまいたい。
来ないで。こっちに来ないで。
夏よ、ああ夏よ、私の元へ訪れないで。
嗤いながら、陽炎をゆらめかせながら、どうかこちらへゆっくりと向かってきてください。
憂鬱な気分で学校に行くと、乃々果が顔を青くして、私に飛びついてきた。
「おはよう助けてください!!あやめ様!」
「ど、どした」
「……帽子なくした。どうしよう」
…………おう。
荷物を自分の机に置く。
時間は、まだある。
「一緒に探すよ」
「あやめ様!神!ははーー!」
「いいから探すよ、乃々果」
「かしこまりー!」
教室中を探した。
念入りに3回もチェックをした。
鞄の中を探した。
教科書も全部ひっくり返した。
ロッカーの中を探した。
これも一回荷物を出して、すべてを確認した。
途中で気になる手紙を発見したが、すぐに奪われて、駄目ですと言われた。
結果。
……ナイ。
そして暑い。
額に汗が浮かぶ。
首のあたりもじっとりだ。
ミディアムの髪が首にべとっとくっついて気持ち悪い。
それらをハンカチで拭って、
「もー、どこにあるんじゃ出てこいや!帽子くん!」
と叫んだが、余計に熱くなるだけだった。
時間も、あと5分しかなかった。
クラスメイトも増え始めて、大胆に探すことはできなくなった。
ぽつ、ぽつ、ぽつ、と、
この時期によくあるような、通り雨だろうか。
窓の外が急に暗くなった。
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