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「……あ!」
「あった?」
「違う!」
乃々果は夏を吹き飛ばすように叫んだ。
「テニス!部活!テニスコートの横の屋根があるとこ!あそこかも!」
「……っ、」
ちょっと、遠い。
あと、4分じゃ、見当たらないかも。
そのとき。
ごろごろごろ、ごろ…………ざあああああああ、ごろ、ごろ。
ぽつぽつ雨は、激しい雨に変わった。
「え、やだ、雨!?ちょっとまって、帽子、お気に入りなのに」
……どうしよう。
次の休み時間まで待つ?
でも、あそこはドロドロになりやすい。
どろどろになった帽子を持って悲しんでいる乃々果の顔が浮かんだ。
──それは、やだな。
「……っ、先生に、遅れるかもって、言っといて!」
行く、という意志より先に、足が動いていた。
急げ、急げ、急げ!
走れ、雨なんて気にするな、あやめ!
早くはない足を必死に動かす。
階段を下って、校舎AとBの間から、テニスコートに全力疾走した。
髪の毛が塗れた。
スカートもまだら模様。
──気にしてたまるか。
靴下にドロが跳ね返った?替えはある。
帽子、帽子。乃々果の帽子よ。
どうか、無事で。
私が走っている意味を捨てないで。
「っ、──はぁっ」
髪が湿気る頃には、テニスコートは半分どろどろだった。
どこだ、どこ?
「乃々果の帽子──!」
思いついたところから必死に確認していった。
汗なのか雨粒なのかわからないものが頬をつたった。
「あっ、った……!」
多分それは、乃々果の帽子だった。
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