3/4

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
ひゅーーーーー、ひゅるひゅる、ぴかっ、どーーーん  まんまるの花火が、私達を見下ろしながら開花する。 色とりどりのそれが、豪華に紺色の空を彩る。 「綺麗だね」 そんな普通の言葉が出た。 「そうだな」  “君のほうが”とかキザなこと言わないのは、ちょっとだけ安心する。 だって心臓が持たないじゃん? ぴかっと、ひときわ大きな花火が輝いた。 花火を眺めながらも、やっぱり気になる。 ──朔遙の夏は、何が連れてきたんだろ。 他の人かな?なにか大切なもの? ううん、夏の空気?エアコン?日焼け止めの香り? ──こうして考えてみると、私って可能性はとても小さいんだよね。 花火を見てしみじみとしたからか、なぜだかそんな考えが浮かんで、しゅんとする。    折角朔遙が楽しませてくれようとしてるんだから、楽しまなきゃね。 そう考えてても、なかなかその考えは頭から離れてくれなかった。  最後の100連発花火をみおわると、夏祭りはもう終わり、という雰囲気がみんなの中で流れてきた。  終わり、か………。 鮮やかな赤色を恨めしそうに見つめた。  帰り道はもう暗かった。 お母さんに「帰ります」とLINEをして祭りの余韻を味わうように、ふたりでゆっくりあるいた。 「那月」 「……な、なに?」 「公園、よってこ」 「?──わかった」 朔遙は待ち合わせをした公園を指さした。  鞄から、“それ”を取り出した。 「線香花火……」 「そそ。最後はコレだろ」  ぱちぱち、と。 花が咲くように。  複雑な形を紡いで。 それはやがて落ちる。  線香花火を見ると、なぜだか儚い気持ちになる。 朔遙の目に、複雑な形が映り込む。 花火の中では、線香花火が一番好きかもしれない。  どっちが長く灯していられるか勝負したり、ただそれを見るだけだったり。相手と近づいても危なくないし。 ──私の中で咲いた夏は、こうして、ぱちぱちと複雑な形を紡いで笑ってるのかもしれない。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加