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巡る巡る季節の中で、夏にバトンタッチするすきま。
桜の花が散って、同じ樹とは思えない濃い緑色の葉っぱを蓄えて、アスファルトをこれでもかと熱する太陽が顔を覗かせる。
あんなに爽やかに感じられた風はいつの間にか生ぬるく、体にうっとうしくまとわりつく。
私はすっかり伸びてしまった髪の毛の扱いに慣れていなくて、額や頬に張り付くそれらにちくちくと苛つきを覚えながらも、ちぐはぐに笑みを浮かべていた。
「短くてもいいけどさ、やっぱり、女の子って感じがしていいじゃん」
偶然聞いたその言葉。
たやすく、それはもう不純な動機で。
私の14年間のアイデンティティは消滅することを選んだ。
見た目だけで叶うほど、単純な問題じゃないってことは分かる。
それでも、やっぱり。
こういう思考こそ、「女の子」って感じがしていいじゃない?って、そのくらい言えるようになりたかったな。
しめやかに降る雨は、私の長い髪の毛をしっとり濡らして灰色に染めていく。
心の中で複雑に絡まりあった想いはしかし、一言で切断された。
ほらね、やっぱり。
そっとしておいてほしいのに、雨粒はだんだんと勢いを持ってきて。
このままどこかに消えてしまいたかったのに、あぁ、何にもうまくいかない。
ほらほら、早く。
雨はしゃべりはしないのに、そんな風に急かされたように。
制服のポケットから取り出した黒色のゴムで、髪の毛を結わえる。
この行為はなかなか好きなんだ。
にがい想い出にしない為の要素を発見。すっごく小さいことだけど。
すこしだけ開けた視界にため息みたいな笑みをこぼして、
私は夏の始まりに向けて歩き出した。
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