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坊っちゃんと仲良くなれたきっかけにもなった、御国言葉を使ってそう返す。
俺がちゃんと話を聞いてくれていることに、瞬く間に可愛らしい表情を明るくはするけれども、仕事を邪魔しているのにも気がついたみたいで、直ぐに謝りの言葉を口にするために愛らしい唇を開いていた。
「仕事邪魔してごめんなさい。じゃっどん、どうしても、わいにおいの話を聞いてほしかってん……」
可愛らしい言葉に素直な反省の弁までつけられるとなると、俺はこの可愛らしさ、坊っちゃんの故郷では"むぞらしか"というそうだ、その感情で俺は身長の割に無駄発達して逞しい胸をぐさりとやられて無条件降伏状態になってしまう。
「良いですよ、話してください、坊っちゃん」
元々雇い主の旦那様が仕事の関係で、故郷の屋敷から使用人も引き連れて越してきたその場所で、俺だけが新しい土地で雇われた形でもあった。
それは丁度、進学で坊っちゃんの兄君が家族と離れる事になって、年齢だけが一緒の俺が烏滸がましくも入れ替わる事になったのだ。
勿論、兄君の代わりになんてなれるわけなくて、しかも屋敷内では使用人の皆が御国言葉で俺だけが四苦八苦しているところで、登場したのが坊っちゃんとなる。
『どげんした?ことばがむずかしか?よし!おいがおしえちゃっけん、安心せー』
本当は奥さまの側にいる筈の坊っちゃんの登場に、俺も他の使用人も戸惑った。
けれども、坊っちゃんはそんなことお構い無く、大好きな兄君が遠い学校に入るにあたって教えてもらっていた標準語を披露したいけれども、屋敷内では俺以外が御国言葉を使うから、どうやらつまらなかったところでの、俺の通訳としての登場だった。
そこから「わいにおいが教えてやっ!」と豪語された後に、まるで母鴨についていく子鴨という状態で付きまとわれるし様子を、不本意ながら微笑ましくみられることで、遊び相手にも任命される。
勿論俺に拒否権などはなかった。
正直にいって、俺にとっては坊っちゃんは坊っちゃんでしかなくて、弟なんて恐れ多いとしか例えようがない。
坊っちゃんの方も、「兄さあと同い年で、使用人で遊び相手」ぐらいにしか思っていないはずだ。
だから、話してくださいと口にだしたのと同時に飛び込むように抱きついてくるのに少しだけ驚きつつも、坊っちゃんの言葉をまった。
「……兄さあが、今は学校でおらんさらんけえ、わいを兄弟のように思えばいいって、おやっどもかかどんもいうちょる」
「それはなんといっていいか、わからないですね。でも、坊っちゃんのお兄様は"兄さあ"だけですから、安心してください。
俺は、お手伝いはしますが、お兄さんのふりなんてしませんよ」
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