里見埋蔵金奇譚

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 その言葉が合図であったように、女は玄関を開け土足で中に入る。丁度夕食の最中だった銀造は、「か、加代!ひっ、ひぇー」  と叫ぶや否や裏口から脱兎の如く逃げ出した。 五  銀造は滅茶苦茶に道を走った。どこをどう走っているのか、ここが何処なのかすらも判らなかった。  加代が現れた時、話し合うとか考えられもしなかった。目に狂気の色を湛え、こちらを見詰めた時に「殺される」しか頭に浮かばなかった。川の畔に出る。加代は追跡を諦めただろうか。  周囲を見回す。人影はない。  銀造は地面に腰を下ろした。川辺に吹く風が体の汗を引いてゆく。体の力が一度に抜けていくのが感じられた。 加代はどうやってあの家を突き止めたのだろう。疑問であるが、何となく銀造は加代ならやりかねないと思えた。 「こちらでしたか」  背後から声が掛かる。銀造はゆっくりと振り向いた。  加代がいた。先程の鬼女の様な表情は顔から消え、全くの無表情だ。 「何故お逃げになったのです」 「あの宝は私達が幸せになる為に使うべきものだ。あんな山奥にずっと隠していて何になる。お前や子供の為を思って私は……」 「お黙りなさい!」加代が叫ぶ。
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