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「お前様は自分の幸せしか考えていない。我等金窪一族はあの宝を護り通すことが幸せなのです!」
銀造は悟る。この女には恐らく何を言っても無駄だ。
「私を殺すのか」
「止むを得ますまい」
懐から懐剣を取り出す。
「お前様を殺し、私も命を絶ちます。冥途でお会いしましょう」
「子供は、良造はどうする? 我等二人が死んだら生きてはいけぬぞ」
加代が悲しげに俯く。嫌な予感が走った。
「良造ならここに来る前に殺めておきました。向こうで私達を待っております」
その言葉を聞き、銀造はこの世への未練が断ち切れた。
立ち上がり両手を広げる。
「信じてほしい。誓って私は己の欲の為に宝を取り出そうとしたのではない」
加代が銀造の胸に飛び込む。心臓を一突きにされた銀造はそのまま加代を抱きしめる。加代の目に涙が溢れた。
二人の体は抱き合ったまま川の流れの中に没し去った。
後日、新聞に神田川岸で起きた夫婦の心中事件が小さく報じられた。
下村は銀造が置いていった風呂敷包みの中の絵図面を頼りに埋蔵金探索を続けたが、成果はなく、昭和二十年の空襲により記録絵図面共に灰燼に帰した。
金窪一族の思いと共に、埋蔵金の手掛かりは炎となり天に昇ったのである。
了
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