里見埋蔵金奇譚

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 熱冷ましや腹下しなどの内服薬と、傷や虫刺されなどの外用薬を売り、一安心した銀造は、その後、女から問われるままに東京や横浜の様子、今まで自分が行商で行った土地のことなどを話して聞かせた。  少し距離が縮まったからか、女は自分を金窪加代と名乗った。  何でも生まれた時からここに住み、この近隣以外に外に出たことがないと言う。両親が数年前に流行り病で相次いで亡くなり、以来一人暮らしとのことだった。  美人相手で舞い上がっていたのもあるが、夢中になって話している内に、外はすっかり暗くなっていた。  外に出て途方に暮れたが、覚悟を決め、 「それでは、これで失礼します。有難う御座いました」  礼を述べ闇夜の中を歩き出した銀造の背に、加代の声が掛かった。 「お待ち下さい。あの……もし台所の土間でも良かったら、今夜はこちらにお泊り下さい」  銀造は躊躇いがちに、 「しかし、そういう訳には参りますまい。この家には貴女お一人しかいませんし」 「良いのです。長話で引き留めたのは私ですし、若し山道で狼に出くわしては一大事です」  狼に出くわした時のことを想像し、身震いする。
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