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礼を言い、その日は泊めてもらうことに銀造は決めた。
泊めてもらう御礼にと、銀造は加代が買った以外の様々な薬を渡した。加代は喜び、御礼返しにと家にあった酒と猪鍋を振る舞い、銀造を大いに喜ばせた。
夜も更けるまで様々な話をした。加代は都会というものに大層な憧れを持っているらしい。
それならばと、
「あなたはお一人なんだし、こちらの家を畳んで東京か横浜にでも出たら良いのではないですか?」
と聞いたが、
「それは出来ません。父祖代々のこの土地からは離れられませぬ」
と、にべもない。
その内に酔いの回った銀造は、加代から土間に敷く茣蓙(ござ)を受け取り横になった。
横はなったが、銀造は中々寝付けなかった。隣の襖一つ隔てた部屋には加代が寝ているのだ。
銀造は今年二十七歳。結婚していてもおかしくない年だが、薬の行商で全国を行脚していて、女と懇ろになるような暇などなかったのだ。勿論結婚して所帯を持ちたい気持ちはある。
―これも縁なのだろうか―
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