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事も無げに言い、部屋の奥の箪笥の引き出しを開け信玄袋のようなものを取り出す。何と中にはかなりの額の金が入っていたのだ。
「これだけあれば暫くは困らないでしょう。若し足りなくなったら言って下さい」
銀造はただ驚いていた。何故こんな辺鄙なところにある家が、こんなに金を持っているのだ。考えても理由がまるで判らなかった。
訳を聞いても、
「亡くなった両親が残してくれました」
とだけしか話さない。
―その両親はどこからこの金を―
と聞きたかったが、加代の態度に(これ以上聞くな)
と出ていて、聞くことがどうしても出来なかった。
こうして銀造は金窪家の婿となった。家のすぐ近くに小さな畑があり、そこで米や野菜を収穫し、川で魚を取り、山で猪や鹿を駆る。加代は獣用の罠を仕掛けたり、弓矢を使って狩りをするのが上手だった。
「父から教えて貰いました」
と言うが、銀造などよりも遥かに上手で舌を巻いた。
どうしてもここでは手に入らないものは、村まで銀造が下り、商売屋で加代から渡された金で購入した。
翌年には待望の子供が生まれた。男の子だった。
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