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私が目を開いたとき、最初に視界に入ったのは、白衣を着た、十代半ばごろの黒髪の少年だった。
周囲には大小さまざまな機械が置かれており、私はその研究所の中央のベッドであおむけになっていた。
ラボといっても、素人大工で建てられた木造家屋だというのは、一見して知れた。よくこんな家の中に、これだけの設備があるものだと、私は生まれたてながらに意外さを覚えた。
少年は、私の顔を上からのぞき込むと、
「成功した! やはり僕は天才だな! 初めてのアンドロイド造りを、かくもたやすく成功させてしまうとは!」
私は身を起こし、少年に尋ねた。
「あなたが私を造ったのですか」
「いかにも! 僕の名はアルパ、科学者だ。君はベーターと名づけよう」
「あなたは年端もいかない少年に見えます。にもかかわらず、私のようなアンドロイドを製作するとは、科学者として並みならぬ能力をお持ちと推察いたします、マスター」
すると、少年は人差し指を立てて左右に振った。
「マスターはやめてくれ。僕は君を、僕の弟として造ったんだ。兄さんと呼んでもらおう!」
「かしこまりました、兄さん」
「うむ。そして僕の才能についてはお前の読み通りだ。僕は史上に類を見ない天才で、いずれ中央国家院からお呼びがかかることは間違いない! だがその天才性ゆえに、周囲に理解者が少ないというのも事実ではある」
私は首をかしげた。
「理解者が少ない?」
「ああ」
「私のデフォルトデータによると、この家はいわゆる、野中の一軒家のようですね。そして兄さんのほかには、ここに住んでいる人間はいない。ここから十スタディアと離れていないところに、村があるはずです。その村のはずれにわざわざ家を建てて住んでいるということは」
「ベーター。世の中は、いちいち言葉にしなくてもいいことというものがだな」
「ぼっちなのですか。つまはじきものの、ぼっちなのですか、兄さんは?」
兄さんは、白衣を傍らのデスクに脱ぎ捨てた。
「言語野は、スラング含め正常に動作しているようだな! ああそうさ、僕はアンドロイド造りの天才でな! 論文はすでに何度も賞を受け、僕の研究をもとにしたそこそこのアンドロイドがすでに中央ではいくつも誕生している! だが僕が初めて自分自身で造り上げたお前こそは、そんなガラクタどもなど及びもつかない傑作なのだ!」
「ガラクタ呼ばわりはどうかと思いますが。冷たいですね、兄さん」
兄さんは両手を上へと伸ばす。木造家屋の、粗末な天井しかそこにはなかったが。
「冷たいのは世間の方だ! 頑固な宗教家どもを中心に、アンドロイド開発は今なお変人扱いされ、白眼視されている! 差別だろこんなの!? 精緻で精妙なアンドロイド造って何が悪い!? ベーターは見た目は人間そっくりだが、内部は金属だらけだからな。ガチガチ音立てて歩いたらすぐばれるぞ」
「まあ、機械で人間を造るというのは、それが精巧であればあるほど、人間の目には奇異に映るというのは、理解できなくもありません」
「お前、当のアンドロイドなのにクールだね!?」
「お気に召しませんでしたか」
「いや」
兄さんは、デスクの白衣を手に取り、ぽんぽんとはたいた。そして力なく笑いながら、
「こういうやりとりが……まさに、こういう遠慮のない会話がしたかったんだ。へへへ。これからよろしくな、ベーター」
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