万物料理人 味がわからないのに異世界であらゆるものを調理する

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ハリスと配膳担当者の顔に疑問符が浮かぶ。 「料理って、完コピ、完全再現は不可能なものなんです。レシピは材料や分量、手順などその料理を誰でも作れるように示した案内図です。音楽で言うなら譜面のようなものでしょうか。しかし、レシピ通りに作ってみたのに、作り手によってその味が変わってしまうことは多々あります。同じ譜面で楽曲を奏でても、演奏家によってまったくその音が違ってしまうように」 「確かにもし私とヒツジが同じレシピを用いて同じ料理を作ったとしても、まったく違う味になってしまうだろうな」  ハリスの旦那が作ったやつは犬でも食わねぇや、と配膳担当者が茶々を入れる。 「微妙な塩梅、さじ加減、力加減、注意加減、などなど、どうしたって人それぞれのやり方があるものです。それに、料理はその時の環境が影響します。どのような状態で、どのような場所で、どのような時間帯に……それを全て完全に再現するのは、およそ人間には叶わぬことでしょう」 「そんなのはもはや神の所業だな。しかしそんなのはごく当然の、言わずもがなの話ではないか。ヒツジ、お前は一体なにが言いたいのだ?言葉で私を煙に巻こうとしているのか?」  問い詰めるようにハリスは言った。 「いえ、自分は別に言葉遊びがしたいわけではありません。要するにです、仮にブラッドソーセージに必要な全ての材料が手に入ったとしても、自分にはハリスさんが食べていたブラッドソーセージと全く同じものは、作れないということが言いたかったのです」  白旗を揚げるようにお手上げのポーズを取った。 「お前はさっき、最後の晩餐としてブラッドソーセージを作ってみせると言ったではないか!!」  馬鹿にされたと思ったのか、ハリスは憤激して声を荒げた。
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