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「よかった。足に切り傷あるけど、顔は無傷や」
眩しくて、顔を背ける。ちらと見た将大の顔は、怒っているみたいだった。
「ちょっとはこっちの身にもなってや。寿命縮むわ、ほんま」
「だって私、これくらいしかできないから」
霊能者として力があるのは鈴だけだ。私は鈴がいなければ、霊と会話することすらできない。
「これくらいて、あんた……」
神霊の力を少しだけ借り受ける。それが私にできる精一杯だった。ブレスレットを依り代として、力の一部をコピーさせてもらうのだ。
ため息をついた将大が、しゃがんだままくるりと背を向けた。
「ほれ、おんぶ」
ぶっきらぼうに言う。
「……おんぶしてくれるん?」
「はよ、捕まってや」
「ありがとう」
将大の背に捕まると、「んしょ」と掛け声と共に立ち上がる。
「だいたい典ちゃんは一人で頑張りすぎやねん」
私の身体をゆすり上げ、歩き出す。
「まあ、鈴ちゃんもあんな感じやし。自分が頑張らなと思うのは分かるけど、真面目過ぎんねん」
将大の肩にそっと頬を押し当てた。
「私がこんな風なのは、別に鈴のせいじゃないよ」
「まあ、俺みたいにふらふらした怠けもんに言われたないやろけど。この際や、言わしてもらうで」
「怒ってんの? 将大にい」
「おう、怒ってるで! 何でもかんでも一人で抱えこんで」
目を閉じると、どっと安堵が押し寄せた。
「しんどくても平気な顔して、我慢して、突っ張って!」
ほんまこの子は、と呟く。飲み込んだ言葉の察しはついた。頑固者だと言いたいのだろう。
私が頑ななのは、鈴に負い目があるせいだ。
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