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1、封印を解かれた人形
後藤家の広々とした奥座敷は、一分の隙も無く飾り付けられた雛人形たちで、ひしめき合っていた。
瞬きも忘れて突っ立っていたら、何時しか全てが削ぎ落されて、緋毛氈にぽっかりと浮かんだ白い顔が、一斉にこちらを見ている。
開け放した障子の向こうは、琵琶湖だった。その淡いきらめきを背景に、桜の盆栽が甘い香りを立ち上らせていた。
「すげー。これ全部先輩ん家のお雛さんっすか」
頭の後ろで両手を組み、将大は開いた口が塞がらないでいる。
「母が好きなんや。もう三月も末やし、ほんまは片付けたいねんけど。今、ちょっと入院してて。勝手に触ったら怒られるし」
言い訳がましく言った後、後藤継実は私を振り返り、照れ隠しのように微笑んだ。何気ない仕草にも、旧家の子息らしい、品の良さがあった。
「これだけあると、さすがに怖いですよね?」
「いいえ」
古い人形を怖いという人もいる。だが持ち主の愛情を受けた人形たちは、新しいものより、まるくて穏やかだ。
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