2、淡海

2/6
前へ
/89ページ
次へ
 尼寺で女ばかりに囲まれて育ったせいか、将大には粗野なところがない。話し方も、物腰も柔らかいくせに、剣道は全国大会に出るほどの腕前だ。  一たび竹刀を握ると、人が変わったようになる。静謐な佇まいから、凄まじい気迫が陽炎のように立ち上る。どんなに瞬きを我慢しても、目に留まらないほどの剣捌きで相手を圧倒し、するすると勝ち進む。  しかし高校の剣道部に輝かしい成績を残した後、将大は何の惜しげもなく、すっぱりと剣道を辞めた。  理由は聞いていない。大学に入ると髪を明るく染め、剣をギターに持ち替えて、バンド活動にのめり込んだ。  何度かライブを聴きに行ったけど、私には音が大きいだけで、何が良いのかさっぱり分からなかった。継実とは、音楽仲間を通して知り合ったらしい。    将大は鼻歌混じりに、機嫌よく空を見上げて歩いている。右手の親指で太ももを叩いているのは、ギターを弾いているつもりなのだろう。  面白い人だ、と思う。  一緒にいると、いつの間にか将大のペースに巻き込まれている。価値観までが将大の尺度に置き換わって、普段胸につかえて息苦しくさせるものが、芥子粒くらいの大きさになる。手足が自由に伸びて、体まで軽くなる気がする。  だからだろう。将大には男女を問わず、友達が大勢いる。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加