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いつも仕事着にしているパンツスーツではなく、ワンピースに、もこもこしたカーディガンという服装を選んでしまったことを、少しだけ後悔した。
将大に変わって人形の前に座る。そっと黒髪に触れてみた。
「人毛が使われているようですね。この子は、誰かの身代わりとして作られたのだと思います」
屋敷には、何体か霊の気配が潜んでいる。私に分かるのは、そこまでだ。
「亡くなった子供を偲んで、人形を作らせたということですか?」
「子供とは限りません」
幼い頬に、とろけ出しそうな色香が込められている。
「そうですか……」
継実が肩を落とした。
「足の裏」
鈴がいたずらっぽい目で、人形の足元を指さす。
着物の裾をめくり、人形の身体を傾けた。白い足袋の裏が茶色く汚れている。
「泥汚れか……?」
足袋の裏をそっと指先でなぞって、将大が眉をひそめた。
「先輩、この汚れはいつから?」
「さあ。気が付かなかった。最初から汚れていたんじゃないのか?」
あまり関心がなさそうに答える。
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