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「お父さんのことかてそうや。探してんのやろ?」
「……知ってたん?」
頭を持ち上げようにも、砂でも詰まっているみたいに重たくて無理だった。
「やっぱりそうか。そやったら、何で相談せえへんねん」
「……鎌かけるなんて、ずるい」
私の呟きが耳に入らなかったのか、将大が続ける。
「俺、手伝うやん。水臭いにも程があるで。首突っ込んで欲しない言うなら別やけど」
「将大にい、めっちゃ怒ってるやん」
「だから、そうゆうてるやろ!」
愛情と執着の間に、どれほどの距離があるというのか。
「頼むから、もっと自分を大切にしてくれ。今日かて何かあったら、俺……」
子供の頃、必死に取り繕った将大への想いは、誰の目にも滑稽なほど見え透いていたに違いない。
「周りに頼ることは、恥とちゃうねんで! 頼られた方は、嬉しいねんで!」
私はこの人の優しさを、低く見積もりすぎていたのかもしれない。
「……立てへんかったら、俺がいつでもおんぶしたるやん。何なら、鈴ちゃんもまとめておんぶしたるから」
温かい。
「知ってるか? 俺、まあまあ強いねんで」
涙が鼻筋を通って、ぽとりと将大の肩に落ちる。
「……典ちゃん」
不意に、低い声で将大が言った。
「……今でも俺に、あの家から連れ出して欲しいと思ってるか?」
ずるいよ。今それを聞くなんて。
「……典ちゃん? こら、寝たら落ちんで!」
それきり、意識が途切れた。
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