二つの音

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 夕方から激しい雨が降り出してきたが、夜十時すぎには小降りになっていた。  この夏はやけに夕立が多かった気がする。  パラパラと打ち付ける雨音が、この狭い寝室の中にまで響き渡る。  住宅街にある僕の住むこの一軒家は、祖父母が若いころに建てたものだ。  祖父母も両親もすでに他界し、僕はここで一人暮らしをしている。  トタンの屋根を打つ、リズミカルな雨音が耳に心地よい。  そろそろ寝たほうがいいかな。  そういえば何時になったのだろう? もう十一時を回ったのだろうか。  枕もとに置いた時計を見る。まだ十時半か……。  お風呂に入ったあと、ベッドに横になって、大好きな推理小説を読みふける。これこそが僕の一番大好きな時間。もっとも幸せなリラックスタイムだ。  小説の中では、名探偵が連続殺人事件のトリックを詳らかにしようとしている。  物語はクライマックスに突入。  探偵が、いよいよ真犯人を指摘しようとしているのだ。  一体、犯人は誰なんだ? 被害者の妹か、それとも上司か? いやいや待てよ、被害者の恋人も怪しい行動をとっていた。アリバイがない同僚も怪しいものだ。
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