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ワクワクしながらページをめくっていく。
ついに探偵の口から、犯人の使用したトリックとその証拠が語られる。
そして犯人の正体も。
被害者の上司に探偵の人差し指が向けられ、ついに告発が始まった。
はっきりとしたアリバイを持つ上司の中年男性、こいつが真犯人だったのか……。
僕という人間は、大好きな推理小説を読み始めると、時間が過ぎるのも忘れてしまう癖がある。
今夜も時間を忘れ、ヨーロッパのリゾート地を舞台にした推理劇にのめりこんでしまった。
二時間ほどかけ、いよいよ最後のページに到達する。
ラストの一ページを読み終えたときの満足感を僕は味わっていた。
ああ、面白かったなあ。本を枕もとに置き、顔をあげる。
そのとき、妙なことに気がついた。
窓の外から聞こえていたはずの雨音が、まったく聞こえなくなっている。
その代わりに、ピタピタという音が廊下のほうから聞こえるのだ。
それは奇妙な音だった。
規則正しい人間の足音のようなリズムだが、まるで水族館のペンギンが濡れたコンクリートの上を歩いているような音だ。
僕は一人暮らしだ。この家にほかに住人はいない。
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