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「おにいちゃぁああん」
リビングのソファに横たわっている僕のそばで、弟の悠太が大きな声を出した。
僕はアアはいはいと、友人に借りたばかりの週刊ジャンプから目を離さずに答えた。ようやく半分、読んだところだった。
「ねえってばーっ!」
悠太が何を言おうとしているのか、僕にはすでに分かっていた。昼下がりになっても、僕たちは冷蔵庫に入れてあった食パンと雪印牛乳くらいしか口にしていない。
「あーもう」
僕は悠太を見やり、
「そこにお金があるだろう? 好きなもん、買ってこい」と言って、母親がキッチンテーブルに置いていった封筒に人差し指を向けた。
「えー、ぼくひとりで? ヤダ。いっしょに行こうよお」
僕は腕を強く引っ張られて、ソファからずり落ちそうになる。
「やめろって。わかった。じゃあこうしよう。出前を頼むからアレ持ってこい」
「いいの? じゃあぼく、オムライス!」
僕がソファに座り直すと、悠太はキャビネットに駆け寄った。
「あのな。大衆食堂にそんなオシャレなもんないぞ。カツ丼にしとけ」
「ぼく、オムライスがいい……」
諦めきれないのか、悠太は口を尖らせながら、子機を差し出す。
さっそく街角の野口食堂に電話をかけた。
「あ。もしもし」
驚いたことにオムライスもOKだったので、僕も弟に便乗して二つ注文した。
一時間ほどかかるよお、と甲高い声が電話口に返ってきた。
リビングの白い壁を眺める。
振り子時計の針は、十二時二十分を指していた。僕はうなずき、お願いしますと伝えて、電話を切った。
「オムライス、OKだって。よかったな」
そう言うと、悠太は生え変わりつつある前歯と嬉しそうな笑顔を僕に見せてバンザイした。
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