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「何か入用があれば気軽に訪ねてくれ。では」
案内を終えたエルシアは、用は済んだと言わんばかりに扉を閉めようとする。
案内人としては当然の反応だ。自分と彼女らは親しいわけではない。この合同任務が終われば今後関わるかどうかも分からない相手だし、そもそもこの合同任務は南支部のときとは違ってビジネス寄りの任務だ。各々やるべきことをなす。ただそれだけの関係である。
自分もその関係を超える気はない。ただ強いて言うならば、贅沢なのかもしれないが―――余裕があるうちに動けるなら動いておくべきなのだと、そう考えたがゆえの行動だったのかもしれない。
「あの……私から一つ、お願いがあるのですが」
閉ざされようとした扉は、完全に向こう側の世界と分け隔たれる前にその動きを止めた。自分の声に反応し、扉を開けてエルシアが視線を投げてくる。
「まだ時間もありますし、この中威区東部のことや、東支部のこと……教えていただけませんか?」
「……貴女は確か、北支部の新人だったな? それに先程の新人請負人と主従の関係にあるようだが……失礼ながら問いたい。それは主の命か?」
「いえ。私自身の意志ですが」
質問の意図が分からず、首を傾げつつも正直に答える。
確かに今の澄男は使い物にならないので、メイドとして代わりに情報収集しようという意図もないわけではないのだが、自分としてはそれが主目的ではない。単純に時間に空きがあるので、蓄えられる知識は蓄えておこうという己の知識欲を満たしたいがための言動だ。
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