メイドの談話

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 なおかつ自分の知識欲も満たせる。勉強は時間と精神の余裕のあるときにやっておくと後々楽になるのだ。 「そうですね……では中威区(なかのいく)東部の時世について」  脳内で優先順位を付けた結果を口に出す。  ただ知識欲を満たすだけではもったいない。時間は有限ゆえに、今後も利用するであろう情報を先に仕入れておくのが現時点における最適な選択だ。  東支部の内情は今後彼女たちと関わるか分からないし、あまり深入りすると彼女たちの地雷を踏みかねない。ならば、まず聞くべきは今自分がいるこの地域―――中威区(なかのいく)東部中小暴閥(ぼうばつ)自治区の時世であろう。  エルシアは顎に手を当て、少しばかり思案に身を委ねた後、またこちらに視線を戻してきた。 「先程の会議でも言った通り、この中威区(なかのいく)東部は凪上(なぎうえ)家含む中位暴閥(ぼうばつ)が覇権を握らんとしている暴閥(ぼうばつ)自治区だ。我ら東支部は中位暴閥(ぼうばつ)とそれらに(くみ)するギャングスターに支配権を握らせないようにするため、この地区の治安を守っている」 「その言葉尻からして……無礼を承知でお聞き致しますが、治安はあまりよろしくないのですか?」 「まあ……良いとは言えないな。東支部請負人は都市の警邏(けいら)が主な仕事だが、それでもギャングスターの小規模紛争や弱者の不合理な搾取は絶えない」  エルシアの表情が露骨に暗くなる。それを察し、情勢は概ね予想通りであることを心中に留めておく。  武市(もののふし)は、全体的に治安が良い国ではない。むしろ悪いとすら言っていい国だ。
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