メイドの談話

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 彼女の瞳は真っすぐだった。憐憫でも哀れみでもない、他人でありながらも、ただ任務で同じ敵に相対するだけの仲だと知っていながらも、相手を純粋に心配している目だった。  揺らめく瞳に、自分の顔が覗けるほどに。 「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です」  エルシアは目を見開いて押し黙った。自分の返答が意外だったのか、それとも自分の表情を見て本当に強制されていないのだと悟ったのか。とかく彼女にとっては、予想とは違ったリアクションだったのだろう。  弥平(みつひら)から説明を受けた東支部の過去を思えば、エルシアの心配は何もおかしいことではない。  かつて東支部は暴閥(ぼうばつ)勢力とギャングスター勢力によって占拠され、真面目に任務をこなそうとしていた請負人たちは奴隷の如く虐げられていた。  その絵面は想像に難くない。屈強な男たちが、か弱き女を支配する。彼女たちは、元々奴隷の身分にあった者たちなのだ。  東支部代表``剛堅(ごうけん)のセンゴク``によって解放されても尚、ようやく人としての身分を獲得できた彼女たちにとって、虐げられていた頃の心の傷がそう簡単に癒えるわけではない。  さっき怒り暴れた澄男(すみお)が、まさしく自分たちを暴力で虐げてきた暴閥(ぼうばつ)やギャングスターそのものに映っても、なんらおかしくはない話であった。  まあ実際、暴閥(ぼうばつ)の現当主で、それも大陸八暴閥(ぼうばつ)の一角、流川(るせん)本家派当主なのだから、素性を知られたらあながち否定したくてもできないという苦しい現実があるのだが。
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