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「本当か……? 失礼ながら、貴女の主人はお世辞にも話し合いが通ずる相手と思えないのだが……?」
尚も心配してくるエルシア。あながち間違いではないから本当に否定しづらい。
澄男の問題解決方法は、喧嘩で相手をこっ酷く打ち負かすことで、自分の主張の正当性を押し付けるという極めて強引なもの。話し合いなどという平和的解決からは程遠い手段を日頃から使っているのは事実だ。
この場で言うことはできないが、彼とて流川家という暴閥の当主。流れる血は百戦錬磨の戦闘民族のそれだ。問題は戦って決着―――という考えが身に染みているのだろう。
かくいう自分も水守家の当主。話し合いよりも敵は殺して解決するという方法には異論ない立場なのだが、澄男の場合は木萩澪華のこともあり、些か過激になっている面は確かにある。
「私のような事情を碌に知らぬ他人が焼くようなお節介ではないのは重々承知しているのだが……もしも虐げられていると思うと居ても立ってもいられなくてな……まあ杞憂ならいいんだ。それに越したことはないからな」
苦笑しながら、己の悪癖を誤魔化すように窓に映る風景へ視線を逸らし、紅茶を啜る。その仕草を見て、ほんの少し笑みがこぼれる。そして、気がつけば言葉を発していた。
「……私は彼に救われたのです」
本来ならば話すつもりのなかったことだが、己の主人の株が下がったままなのは些か納得いかない自分がいる。原因を作ったのはほかならぬ彼なのだが、そんな傍若無人を絵に描いたような彼についていくことに迷いがないのだから、落ちた株を上げるくらいのことをしてもなんら不満は湧いてこない。
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