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出会いの時〜新たな道へ〜
春を迎える三月にしては珍しく、激しい雨が降った。
僕は慌てて入った駅近のファミレスに身を落ち着かせ、昼食をとることにした。
注文したパスタが、机に並ぶとフォークにクルクル巻き付けて一口頬張る。絶品とは言えないがそれなりの美味しさはあり、僕としては満足だった。
おまけに金のない大学生の僕にとってファミレスは割安で、ドリンクバーを頼めばコーヒーなども飲み放題。子供の叫び声や良くわからない音楽を除けば、最高の空間だ。
パスタを食べ終えた僕はコーヒー片手にノートを開いた。大学の課題とかそういうノートではない。これは、僕が物語を組み立てる時に使っているノートだ。
高校生の頃から物語を考え小説にしている。このノートも今家五冊を超えてきただろうか。それが多いのか少ないのかは正直分からないところだが、一作書くのに一冊という計算で進めている。
一冊の小説と考えた時には少し多いのかもしれないが、そこまでしなければ登場人物の像は見えてこないし、物語にリアリティを出すことができない。
けれど、そこまでして創り上げた作品は読者に受け入れてもらえず、僕の心の中にだけ宝物として刻まれていた。それでもいいと思えてしまっていた。
勿論、満足はしていないが無駄だとは思わない。いつ、どんな作品が売れるのかは分からない。だから、僕は小説を書き続けるんだ。
それに、物語を考えることは僕にとって自分を見つめ直す大切な時間とも言える。
感動を呼ぶ作品には、本当の悲しみを組み込む必要があり、僕は幼い頃、両親に捨てられたという過去を引っ張りだして組み込んでいる。
他にも両親がいないことで受けた虐めなど、苦しい思い、悲しい思いをそれなりにはしてきた。
でも、僕の育った孤児院には幸せが溢れていた。だから、僕の作品は必ずハッピーエンドで終わらせたいと思っている。
名作と呼ばれる作品には必ず「死」が付き纏うものだ。僕自身の作品もそういった生死を分けるような強いテーマを持っている事が多い。それでも、物語の終幕には主人公をはじめとする取り巻き達が満面の笑みを浮かべているような、そういうラストを迎えさせたい。
物語の途中…即ち人生の途中では沢山の苦悩をし、沢山傷ついてしまう。だからこそ、辛い事だけではないのだと思えるような作品にしたいんだ。
そんな想いを物語の構造に組み込んでいると、いつの間にかマグカップの中のコーヒーが空になっていた。
せっかく捗り始めた所だというのに、と考えながらも更なるアイデアを取り入れるには脳を冴えさせる為のカフェインが必須。僕自身の集中力もブラックコーヒーが有るのと無いのでは格段の差がある。
僕が椅子を引くと、ギーという少し嫌な音がした。
辺りを見渡してみたが、各々が談笑に夢中となっていて僕のたてた音には一人として気が付いてはいなかった。
注目が集まったわけでもなく、誰かを不快にさせたわけでも無いと知り安堵した。
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