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この頃の雨が嘘かのように晴れた日。僕は学生として出席しなくてはならない講義に来ていた。興味のある講義という訳ではないのだが真面目に受けようとは思っている。
ここで受けた講義がいつの日か小説に役立つものかもしれない。そう思うのも半分、真意は遊び呆けていたり、講義を出会いの場としか考えていない愚かな人になりたくはない。だから、真面目に大学生活を送っているし、小説で結果が出なくとも就職に困らないようにもしたい。
それに講義室の後列にて、女を口説く馬鹿な男どもを見たり、それに乗っかってバカでかい声で話し込んでいる女達を見ていると、胸が軽くなる。僕はあいつらよりは間違いなく頑張っているし大丈夫だと思えるんだ。
昔から自覚はあるのだが、僕は非常に性格が悪い。
この悪さは表面上には決して出ない。内面に現れるモノの見方とか考え方とかそういった部分が心底腐っていて手の施しようがない。
自分の性格の悪さにため息を付いていると、空席だった僕の隣に一人の女性が腰を下ろした。その瞬間に男どもの視線がこちらに向かってくる。
こんな状況にした張本人、藤宮葉月に聞こえるよう「大学デビューの調子は良さそうだな」と僕は呟いた。
すると、藤宮が怪訝な笑みを浮かべて僕の頬をつねった。
「いてて…」
そんな光景を見ていた男どもの視線が自分の頬よりも痛く、僕にのしかかっていた。
「ねえ、どこ見てんの?」
僕が痛い視線の先を見つめていると藤宮が袖を引っ張ってくる。
「藤宮。お前さ、目立つから俺に近づくなよ」
「無理!せっかく高校から一緒なのに何で今更関わっちゃいけないのよ」
「いや、お前って高校の時より派手になったから…」
「は?どこがよ。髪の毛も染めてないし、メイクだってナチュラルメイクなんだよ?これなら昔の地味だった私と差し支えないでしょう」
そう言って自信満々に胸を張る藤宮だったが、もし仮に目立っていないのだとしたらこのむせ返るような視線はどう説明してくれるのだろうか。
だがまあ、藤宮の言いたい気持ちもわからなくはない。
髪色を明るく染めているわけでもない、漆黒と言えるほどの黒髪。メイクも身だしなみ程度にしかしていないのだろう。だが、ここではそういった垢抜けた美人ほど清楚と名付けられ、男を釘付けにしてしまうのだ。藤宮は男関係が活発ではないためそんなことに気がつくこともないくらい鈍感だ。
だから、今日のところは見逃してやることにしようと考えた。
まあ、今日というよりかはいつも見逃しているのだが。
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