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でも、新木先生の言ってることもわかるのだ。
ドクターだと、名前を検索すれば色々と情報が出てきてしまうから。
知らない人に、勝手にあれこれ調べられるの嫌だよね。働いてる所とか、年収とか……諸々、うん。
前の人たちの注文が終わって、やっと自分たちの番になる。
私は話を変えるように、新木先生を見上げると
「ポップコーン、半分こしますか?」
「え?あ、うん」
「じゃ、ここは私の奢りで」
大した金額でもない。
ニヤッと笑ってスマホを出す私に、新木先生は「オレが出すよ!」などと慌てて言ってきたけど、それより前にコード決済を済ませてしまった。
たぶん、これくらい強引にいかないと全部出すって言い出しそうだし……
買った飲み物とポップコーンを彼が持ちながら、小さな声で「ありがとう」と言ってくる。
「気にしないでください。ていうか、チケット買ってくださったし」
「それはほら、オレが誘ったんだし……」
「私も観たかった映画だからお互い様です。さっ、時間ギリギリだし早く行きましょ」
まだ何か言いたげな彼に気づかないフリして、私はスタスタと歩き出す。
今さらだけど、初回に映画を選んだのは良い選択だったのかもしれない。
だってほら、映画中は話さなくてもいいし、だからといって気まずくなったりしない。
「(まあ、新木先生とは今回きりだろうな……)」
漠然と、そう思った。
もし私が今後を願ったとしても、さすがに職場も近いし彼も気まずさが勝るだろう。
何より、相手が私というのが申し訳ない。資格もない、こんな低スペ女……
「(自分で言って悲しすぎる)」
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