【1】あくまでラブコメしたいだけ

8/11
230人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
でも、新木先生の言ってることもわかるのだ。 ドクターだと、名前を検索すれば色々と情報が出てきてしまうから。 知らない人に、勝手にあれこれ調べられるの嫌だよね。働いてる所とか、年収とか……諸々、うん。 前の人たちの注文が終わって、やっと自分たちの番になる。 私は話を変えるように、新木先生を見上げると 「ポップコーン、半分こしますか?」 「え?あ、うん」 「じゃ、ここは私の奢りで」 大した金額でもない。 ニヤッと笑ってスマホを出す私に、新木先生は「オレが出すよ!」などと慌てて言ってきたけど、それより前にコード決済を済ませてしまった。 たぶん、これくらい強引にいかないと全部出すって言い出しそうだし…… 買った飲み物とポップコーンを彼が持ちながら、小さな声で「ありがとう」と言ってくる。 「気にしないでください。ていうか、チケット買ってくださったし」 「それはほら、オレが誘ったんだし……」 「私も観たかった映画だからお互い様です。さっ、時間ギリギリだし早く行きましょ」 まだ何か言いたげな彼に気づかないフリして、私はスタスタと歩き出す。 今さらだけど、初回に映画を選んだのは良い選択だったのかもしれない。 だってほら、映画中は話さなくてもいいし、だからといって気まずくなったりしない。 「(まあ、新木先生とは今回きりだろうな……)」 漠然と、そう思った。 もし私が今後を願ったとしても、さすがに職場も近いし彼も気まずさが勝るだろう。 何より、相手が私というのが申し訳ない。資格もない、こんな低スペ女…… 「(自分で言って悲しすぎる)」  
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!