お使え致しましょうか?

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「きなこ殿、とてもはしゃいでいらっしゃるようですが程々に」 夕暮れ。 中庭にリューク王子と共に現れたのは彼の側近ドラシス。 言い方がとても丁寧でアレだが、前王妃が大事にしていたこの身体で無茶をして人形に傷でも付けたら承知しねーぞと言う意味を含んでいる。 きなこには前世で上司ソックリなドラシスの心情が読めた。 彼にとって大切なのは内側のきなこでは無くあくまで外側、マリオネット本体なのだ。 笑顔のドラシスだが、瞳の奥が座っている。 それに気付いている人間は少ないだろう。 ピリッとした空気など感じないその場に居合わせた子共達は王子に向って頭を下げた。 「リューク王子様、ご機嫌麗しゅう」 礼をして畏まり道を開ける子供達。 王子にとっては何時もの光景なのだろう。 「うむ」 右手を上げ挨拶を受け流す。 リューク王子が手を下げると、まるで当たり前の様に子供達は宮殿内に戻って行った。 人払いをした王子はきなこを見上げた。 「きなこ。公の場で俺との主従関係の儀も終わって無いのに家臣の者と交流をするな」 「主従関係の儀…それってなんか死亡フラグ立ちそうで出来れば避けたいんですけど…」 本音が口を付いて出てしまった。 聞き逃さなかったのは王子のお付きの面々。 特に教育係のミセスクラウドは憤慨する。 「正式に王子の配下に任命されるのは名誉この上無いというのに!」 慌てるきなこ。 「あ、違うんです悪い意味で言ってるんじゃなくて…」 死亡フラグに悪い意味も良い意味もないのだけど。 きなこは思う。 出る杭は打たれる。 学生の頃やOL時代にイヤと言うほど味わってきた。 きなこは危惧する。 異世界でも目立ち過ぎたら不味いんじゃないかと。 前世のパッとしなかった人生を振り返り、今回こそは充実させたものへとやり直したい。その条件はたぶんアレだ。安静に暮らしてこそ叶うのだと思う。 普段は無表情な王子の眉間にシワが寄る。 「俺の直属の家臣にはなりたくないと?」 「そんな事は無いんですけど…」 王子の問いに答えたきなこは考える。 ーーーが、良い言い訳が思いつかない。 もごもご口を動かすだけのきなこに。 「聞け、皆の者」 王子は周囲の者達をグルリと見回した。 「元からマリオネットの身体の主は母君だ。いちいち契約をせずとも」 王子はきなこの瞳を見つめた。 「此奴は既に俺のモノだ」 母親から子である王子に引き継いだのだ。文句は言わせんとばかりの宣言にきなこは不覚にもときめいてしまった。 ちびっこ、恐るべし。 ドラシスはため息を落とした。 「リューク王子はきなこ殿に絶大なる信頼を持っておられる」 ドラシスは微笑んだ。 「万が一貴方がトチリ王子にかすり傷ひとつでも負わせれば、その代償として牢屋に監禁し二度と来世に生まれ変わりが出来ぬよう呪いをかける手筈は整っています」 ドラシスは笑みを捨てた。 「何にしろ気を抜かないで頂きたい。貴方はリューク王子様のボディガードなのだと自覚する様に」 真顔のドラシスに彼から瞳を逸したきなこは (鬼め) と思いつつも反射的に「『ボディーガード』頑張ります…」と返事をするしか無かった。
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