7人が本棚に入れています
本棚に追加
繁華街へと続く雑木林を歩きながらきなこは抱き上げてるリューク王子から目を逸らした
「
にしても、何で私が王子のボディーガードなんてやらなくちゃいけないんだろ…リューク王子の安全を守る候補者なら騎士団の中にいくらでもいるだろうに…」
内心を口からダダ漏れさすきなこ。
「俺の下町見学に付いてこれるのは長官クラスだ」
王子は至近距離できなこに耳打ちした。彼は続ける。
「そうなると、変装しても屈強なオーラが隠せない面々になる。そんな奴等より女で俺と歳の近いお前の方が同行するのに適してる。…こんな簡単な事も解らぬのか。馬鹿かお前は」
このガキンチョ!
きなこは今度こそ本音を飲み込むのに成功した。
ため息に混じり怒りを吐き出すきなこ。
「ドラシスさんなら適任じゃないんですか?」
「ドラシスは優秀だ。しかし俺に話しかける民に常に警戒を怠らないのが問題なのだ。前に行動を共にした際、俺の頭を撫でて来た男をその店の裏に呼んだ時があってな」
「裏に呼んでどうしたんですか?」
「半殺しにした。あやつは腕っぷしは良いが同行者には向かぬ」
「な、なるほど~」
流石鬼の黒崎のそっくりさん。
きなこが納得した理由は、上司、黒崎が空手家で酔っ払いに絡まれた時の報復がえげつ無かったのを知ってるからだ。
「ん?」
きなこの脳裏に新たな疑問が浮かぶ。
「お目付け役が長官クラスしか出来ないって、私なんかがそんな大役お受けしてもいーんでしょうか?」
「お前の強さは折り紙付きだ。あのドラシスから一本取ったのだからな」
「偶然かもしれないですよ」
「偶然では無い。母君が生前仰っていた。命を宿したマリオネットは誰よりも強いと」
「其処信じちゃいます?」
「母君は嘘をついたことがない」
「…王子のお母様はいつお亡くなりになったのですか?」
きなこの素朴な問いかけに王子は更に彼女の耳元に口を寄せる。
「二年前だ」
なら、王子が4歳の頃だろう。
幼くして母親を失くした王子にきなこの目頭が熱くなる。
(ーーーそれで)
ーーーそれでこんなに…
俺様な性格になってしまったのか。
あれ?
王子に同情してた筈なのに。ブルーな気持ちが吹き飛んでいったのは何故だろう?
その時だ。
王子がきなこの耳たぶに強く噛み付いたのは。
「ぎゃ!」
叫ぶきなこを他所に、王子は冷静な眼差しを彼女に向ける。
「ーーー街で王子と呼ぶなと言っただろ」
王子を抱えている為、歯型の付いた耳を手で覆う事が出来ないきなこは涙を堪えるので精一杯だ。
「だからって!耳に噛みつく人が居ますか!」
「此処におるでは無いか。俺だ」
くぅ。
一瞬でもドS王子に哀れみの感情を抱いた自分を恨んだきなこは悔し気に下唇を噛み締めた。
最初のコメントを投稿しよう!