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谷神市での俺の新しい生活は、とてもスムーズな滑り出しを見せたといっていい。
よくあるような「都会から来た転校生がいじめられる」とか「田舎特有の雰囲気に馴染めず浮いてしまう」とか、そういう弊害は皆無だった。
何せ六年前までは俺もここに住んでいたのだし、そもそも谷神市は田舎というほど寂れてはいない。俺自身、適度に大らかなこの地域のほうが、忙しない都会より性にあっていると感じていた。
残念ながら同じクラスに小学校の頃の友人はいなかったが、梶と九十九という存在のおかげで、学校生活も極めて順調といえた。
梶は第一印象の通りの人物だった。明るく気さくで、根が真面目。誰に対しても裏表のない振る舞いで、友達が多い。
そんな梶にとって、転校生である俺が早く周囲に馴染めるようにと気を回してくれるのも、ごく自然な行動だったのだろう。おかげで俺はほかのクラスメイトとも早々に距離を縮めることができた。
九十九のほうは、初めに梶が言った通り、いわゆる「不思議ちゃん」だ。
ぼんやりした雰囲気、のんびりした口調。黙ってどこか宙の一点を見つめていたり、かと思えば、いきなり突飛な発言をしたりもする。ちょっと人とズレた彼の感性は、周囲の笑いを誘うことも多かった。
梶と九十九は以前から一緒にいることが多かったようで、周囲からはほぼワンペアとして扱われていた。そして彼らが何かと俺のことを気にかけてくれるおかげで、次第に俺も加わったトリオのようになっていったのだった。
ふとしたきっかけで、梶と九十九に転校してきたいきさつを明かしたのは、出会って三日目あたりのことだった。
東京で母と暮らしていたが、母が亡くなり、親戚を頼って谷神市に戻ってきたこと。その親戚というのが、興嗣叔父さんもとい、学年副主任の朧川先生であること。
俺が興嗣叔父さんと暮らしていると知ったときの二人の反応は、対照的なものだった。
「ええ!? 与留、ボロセンと親戚なのかよ!?」
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