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 梶は目を丸くして素っ頓狂な声をあげた。聞き慣れない呼称に俺が首を傾げると、「あ、悪い」と少しばつが悪そうに笑う。 「オボロガワ先生だから、ボロセン。悪口じゃねーよ? みんなそう呼んでる」 「違う学年の奴は“将軍”とか呼んでるけどねー」  九十九が間延びした声で続ける。俺は妙に納得して思わず笑った。確かに叔父さんは武将を思わせるような純和風の強面だし、“朧川興嗣”なんていう名前も、やたら渋くて貫禄があるし。 「ボロセンって見た目こえーけど、意外とユルいよな。授業もわかりやすいし、人気あるぜ」 「ねー。俺好きだよ、ボロ先生」  身内に対する客観的な評価を聞き、くすぐったいような気分になる。実際、校内で見かける叔父さんは、生徒と話していることが多い。あいにくうちのクラスの数学担当ではないので、授業は受けたことがないが、生徒からの人望があるのは確かなようだ。 「いやー、マジかあ。ボロセンと一緒に住んでるとか、想像つかねー。ボロセンって家でもあんな感じ?」 「うーん、よくわかんないけど、変わらないと思うよ。昔からああいう感じだし」 「へえ、マジか」と、驚きと興味を全面に示している梶に対し、九十九の反応は薄かった。なぜか「納得」とでもいうように俺の顔をまじまじ見て、 「だからかー。でもボロ先生といるなら安心だねー」 と言って頷く。意味がわからず返事に詰まるが、梶が「確かに、変なのに絡まれても大丈夫そうだなっ」と笑った。 「与留、ぼーっとしてるからなあ。もしカツアゲとかされそうになったら、俺のバックにはボロセンがついてる、って言うんだぞ」 「えっ、俺、ぼーっとしてる?」 「してるしてる。まあ九十九ほどじゃねーけど」  梶の軽口に、九十九は怒るでも言い返すでもなく「だねー」とのんびり頷いていた。
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