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 初めの一ヶ月ほどはあっという間に過ぎた。新しい環境というものは、時間の体感速度を三倍くらいに加速させる。  平日、興嗣叔父さんは大抵俺よりも早く家を出、俺よりも遅く帰宅する。にもかかわらず、食事はすべて叔父さんが作ってくれている。  せめて当番制にしようと申し出たのだが、叔父さんは「もともと自炊していたから」と譲ってくれなかった。 「こう見えても、料理は好きなんだよ。ストレス解消になるしな」  そんなわけで、事前に米を炊いておくのと、食べたあとの洗い物が俺の仕事となった。好きと言うだけあって、叔父さんの料理はおいしい。レパートリーや盛り付けのダイナミックさはいかにも男の料理という雰囲気だったが、それもむしろプラス要素であることが多い。  朝夕の食事だけでなく、弁当まで作ってくれる日もあった。俺はありがたくそれをリュックに詰め、しっかりと戸締まりをして学校へ向かう。  学校までは歩いておよそ二十分。東京での電車通学に比べれば、朝の電車に乗らなくて済むというだけで最高だ。  結局なんの部活にも入っていない俺は、放課後は基本的に暇で、九十九と過ごす時間が多くなった。ほかのクラスメイトに誘われて遊びに行くこともあるが、そうでない日は九十九と並んで帰路につく。  といっても、九十九の家とは方向が少し違うから、学校から五、六分のところにある公園までだ。そこにあるベンチに腰掛け、一時間以上も駄弁って過ごすこともあった。 「あの子、大丈夫かな」  いつもの公園で、そう九十九が呟いたのは、ゴールデンウィークが明けたばかりのある日のことだった。
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