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 その日は昼過ぎから急に暑くなった。初夏を感じさせる日射しにじりじりと肌を焼かれながら、俺たちはコンビニでアイスを各々仕入れた。いつものベンチの上には日光を遮ってくれるようなものは何もなく、木製の座面もじんわりと熱くなっていた。  他愛もない会話をしたりスマホゲームに勤しんだりと、特に実りもない時間をしばらく過ごしていた俺たちだが、ふと九十九が呟いた声に、俺は液晶から顔を上げた。 「あの子?」九十九の視線の先を追い、初めてその存在に気づく。  細い車道を挟んだ向こう側の歩道上で、ランドセルを背負った子供が一人、うずくまるようにしてしゃがんでいたのだ。  髪はショートカットだが、おそらく女の子だろう。膝のあいだに顔を埋めてじっとしたまま、そこを動かない。 「具合でも悪いのかな」熱中症か何かだろうか。「声かけてみる?」と九十九が言う。 「でもさ、今時そういうの、通報されたりしない?」 「防犯ブザーくらい鳴らされるかもねー」  今はちょうど人通りが途切れているが、もっと適任者がもうすぐ通るかもしれない、近所に住んでるおばさんとか。俺がそう言うと、九十九は横目でちらっと俺を見てきた。 「そのおばさんが悪い奴じゃないって、どうやったらわかんの?」 「……確かに」  そのやりとりでお互いに踏ん切りがついたのだろう。俺たちはどちらからともなく立ち上がった。  生け垣の切れ目から歩道に出る。車道を横切り、少女の小さなシルエットに正面から近づいてみる。
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