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「きょろきょろすんなってー。余計に怪しいから」
「そ、そっか……」
もうあと三メートルほどという近さまできたとき、うずくまっていた少女が突然、顔をあげた。俺たちの気配を感じたのかもしれない。その目には警戒が滲み、顔色はとても悪かった。
目が合った俺は、思いきり挙動不審になりながらも、それでは逆におびえさせてしまう、と自分を奮い立たせる。
「あ、えっと……、大丈夫? どこか痛いの?」
恐る恐る声をかけてみる。年齢は小学校の中学年くらいに見えた。うずくまっていたせいか、短めに切りそろえられた前髪が、ぴったりとおでこに張り付いている。
少女は辛そうに眉間にしわを寄せながらも、やはり俺たちへの警戒心が勝ったのだろう、慌てた様子で立ち上がった。途端にふらつくので、俺も焦ってフォローの言葉を口にしようとした、そのときだった。
「あれ? 梶の妹じゃん」
隣から聞こえた声に、俺だけではなく、目の前の少女も「え?」と声を漏らした。
「えーっと、か……かりんちゃん? だっけ。俺のこと覚えてない? 家に遊びに行ったことあんだけど」
改めてよく見てみれば、少女は梶ととてもよく似た顔立ちをしていた。前に九十九が言っていた通りだ。すぐに気づかなかった自分を不思議に思ってしまうくらい似ている。
少女は九十九のことを覚えてはいなかったが(数年前のことだから仕方ない)、一応、警戒は解くことができた。
聞けば、少し前から吐き気と頭痛に襲われており、力を振り絞って自宅へと向かっていたが、耐えきれずにここでしゃがみこんでしまったのだという。
立っているだけでも辛そうな彼女、夏凛ちゃんを、俺たちはひとまず公園内の木陰まで移動させた。
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