【2】

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 九十九が梶に連絡をとっているあいだに、俺はコンビニへ急いだ。木の幹に寄りかかるようにしてしゃがみこんだ夏凛ちゃんに、冷たい水のペットボトルを差し出す。彼女はそれをひと口、ふた口と少しずつ飲んだ。 「お兄ちゃん、迎えに来てくれるって。もうちょっとの我慢だよー」通話を切った九十九がそう声をかけると、夏凛ちゃんは小さく頷いた。 「梶、電話出た? まだ部活じゃないの?」 「ちょうど休憩中だったって。よかったー」  学校のグラウンドからここまで、遠い距離ではない。まして梶のことだ、きっと全速力で走ってくる。俺の胸にも安堵が広がった。  九十九も同じ気持ちなのだろう。夏凛ちゃんが下ろして傍らに置いたランドセルを眺めながら、「最近のランドセルってさー、カラフルだよねー」といつもの調子で言い始めた。  その言葉に釣られるようにして、俺もランドセルに目を向ける。夏凛ちゃんのそれは淡い紫色で、シルバーの刺繍が入っていた。その側面にぶらさげられたキーホルダーにふと目が留まり、俺は「あ」と声をあげる。 「そのグループ、好きなの?」  キーホルダーを指さしながら言うと、夏凛ちゃんは俯いていた顔を上げた。俺の指しているものを確認し、躊躇いながらも頷く。  アクリル製の四角いプレートにプリントされているのは、五人組の男性グループの顔だった。あまり詳しくは知らないが、確か一年ほど前にデビューして話題になったアイドルグループだ。「そうなんだ」と俺は笑顔をつくってみせる。  少しでも具合の悪さをまぎらわせてあげられればと思って話しかけたが、逆効果になりそうならすぐにやめるつもりだった。しかし、 「俺、その人たち、見たことあるよ。ロケしてるところ」  そう言った途端、夏凛ちゃんの目に光が宿った気がした。「えっ」と俺の顔を見上げてきたので、しゃがんで目線を合わせる。
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