【2】

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 東京に住んでいた頃、たまたまテレビのロケ現場に遭遇したことがあった。大変な人だかりだったが、一緒にいた友人が見たいというので付き合ったのだ。集まっているのは女性ばかりで、黄色い声が飛び交っていたのを覚えている。  そのときの様子を、といっても肝心のアイドルたちのことはほとんど見えなかったのだが、まあ多少の脚色も加えつつ話してあげると、夏凛ちゃんは目を輝かせて聞いてくれた。「どの人のファンなの?」と尋ねると、少しはにかみながらも、キーホルダーの一番右を指さしながら名前を挙げてくれた。  顔色はやはり良くないが、好きなアイドルの話題で気がまぎれたようだ。俺は心からほっとした。  そうしているうちに、思った通り、梶はすぐに現れた。野球部の練習着のまま、額から汗をだらだら流している。 「夏凛っ、大丈夫か?」  駆け寄ってくる梶の全身から、お兄ちゃんオーラがほとばしって見えて、俺は眩しさに目を覆いかけた。 「また具合悪くなったのかよ。だから一人で歩くなって言ったのに」  息を切らせながら夏凛ちゃんの横で腰を屈め、ショートカットの頭をくしゃくしゃと撫でる。その様子を見守りながらも、俺の胸には「また」という梶の言葉がひっかかった。が、突っ込んで聞けるタイミングでもなかった。  梶が俺たちに顔を向ける。妹への心配が滲んだ、少し複雑な笑顔だった。 「ありがとな、与留、九十九。とりあえず家まで送り届けてくるわ」 「あ、うん。気をつけて」 「夏凛ちゃん、お大事にー」  夏凛ちゃんは小さく頷いた。細い声で「ありがとう」と言うと、ゆっくり立ち上がり、屈んだ梶の背に手を伸ばす。 「お兄ちゃん、汗びちゃびちゃ……気持ち悪い……」「仕方ねーだろ、黙って乗れっ」というやりとりの後、夏凛ちゃんを背負い、片手でランドセルを掴んだ梶は、颯爽と去っていった。
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