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駐車場には見覚えのある車が停めてあった。濃い青色のラシーン。後部座席に荷物を押し込み、助手席に座るよう俺を促す。
「オボロ、俺も乗せてよぉ」
「うるさい。用事があるんだろ、早く行け」
えーっと不満げな声をあげつつも、樋口先生はすぐに引き下がり「じゃあね、杏藤。来週からよろしくね」と手を振った。俺は助手席からぺこりと頭を下げる。
すぐに動き出したラシーンの車内で、叔父さんが短く息を吐いた。
「悪いな、いきなりうるさいのが来て。疲れてんのに」
「あ、ううん。大丈夫」
「まあ、教師としてはちゃんとした奴だから安心しろ。どこか寄ってくか? コンビニとか」
俺は不要だと答え、車はまっすぐに叔父さんの家へと向かうことになった。
駅からは車で十五分ほど、大通りから外れた住宅地のはずれ。それぞれの敷地がいちいち広く、隣家とのあいだが大きくあいている。そんな中にある、二階建ての古い一軒家。それが叔父さんの家であり、今日から俺の家でもあった。
スライド式の玄関の戸がカラカラと鳴る。土間には革靴とつっかけサンダル、黒い傘。紺色の玄関マットが敷かれているだけの殺風景な玄関だが、真新しいスリッパが用意されていた。硬い感触のなかに足を入れる。
「とりあえず一息ついたらどうだ。茶を淹れるから、居間で座ってろ」
昔から何度も来ていたから間取りはわかっている。十畳ほどの広さの懐かしい居間には、大きめのローテーブル……いや卓袱台と呼んだほうが正しいか。座布団に正座して待っていると、叔父さんがトレイ、というよりお盆を手に台所からやってきた。
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