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少しおどけたような仕草で肩をすくめる。その声に、久々に触れるあたたかさのようなものを感じて、俺は鼻の奥がツンと痛くなった。まぶたのあたりがじんわりと熱い。
あたたかい声はそのまま続けた。
「親だと思え、なんてことは言わない。そんなの無理だろうからな。だが、俺はお前のためなら何でもする。それは覚えておいてくれ」
そうしていよいよ俺の視界が滲む。叔父さんに見られないよう、慌てて俯いた。
叔父さんは気づいていただろうけれど何も言わず、お茶をズズッと啜る音だけが、俺の耳に届いた。
アコちゃん、とは俺の母親だ。杏藤敦子。
興嗣叔父さんとはいとこにあたる。お互いに一人っ子で、姉弟のように育ったらしい。
俺が母のおなかにいるときに父は亡くなった。レスキュー隊員で、災害救助中の事故だったと聞いている。写真でしか知らない顔は俺とあまり似ていない。
母は仕事で毎日遅かった。といっても決して放任されていたわけではなく、休日は俺と過ごしてくれたし、学校行事にも必ず参加してくれた。
興嗣叔父さんはよく俺の面倒を見に来てくれた。俺は叔父さんにかなり懐いていて、遊びに連れていってもらったことも何度もある。
そうして叔父さんや周囲の助けを借りながら、俺が十歳になるまで、俺と母はこの谷神市で暮らしていた。
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