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 出し抜けな言葉を投げかけられ、俺は戸惑った声を漏らすことしかできなかった。それでも彼は顔色を変えることなく、何かを補足してくれるような言葉もないまま、すぐに「なんでもない」と言った。  梶が苦笑いに近い表情を浮かべて、九十九の肩に手のひらをぽんと乗せる。 「悪い。こいつ不思議ちゃんなんだよ。たまに変なこと言うけど気にすんな」  あっけらかんとした物言いに、俺は「あ、うん、あはは」と曖昧な返事をした。  梶は九十九を促すようにしながら、「あとで連絡先交換な!」と言い残して自分の席に戻っていった。  間を置かずに樋口先生が教室へ入ってくる。ざわめきの名残がゆっくり去っていくのを聞きながら、俺はふう、とひとつ息を漏らした。  梶と九十九。  二人との出会いが、あんな奇妙な体験に繋がるなんて、このときの俺はまだ知らなかった。
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