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第一章 杏藤与留は這い寄られる
背にのしかかってくる気配に潰されそうになりながら、「ただいま」と声を絞り出した。
興嗣叔父さんは返事をせず、静かに俺を見下ろしている。違和感が湧き上がる。
――なんで叔父さん、家にいるんだ?
思った途端、背後の気配が濃くなった。
ずっしりと嫌な重み。高音と低音の混じった不気味な音が、獣の息づかいのように激しく強弱を繰り返しながら、俺の頭の周りをぐるぐる回っている。
引き戸を掴んだままの手に力がこもる。家の中に入れば、背後の何かから逃れられると思うのに、足が動かない。
叔父さんの目が妙に鈍い光を放っていて、頭の中で警鐘が鳴っていた。
――近づいてはいけない。
どんよりと薄暗い視界の端に、チカチカと白い星が瞬き始める。玄関先に佇む叔父さんの姿が、ぐにゃりと歪む。
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