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枕元でスマートフォンが鳴った。
こんな最中に。
利き手がふさがっているので、左手でスマートフォンを取る。
やっぱり健二からだ。
なぜかあいつは、いつも電話をかけてくるタイミングが悪い。
ベッドの上で半身を起こして、仕方なく電話に出る。
「はい」
「あ、俺だけど。今、大丈夫か?」
「ちょっと取り込み中」
俺は荒い息遣いを抑えて言う。
「あ、悪りぃな。後でかけ直すわ」
「いや、短時間なら大丈夫だぞ」
「じゃ、ちょっとだけ。あのさ、少し前に3対3で合コンしただろ? あの時の女の子の中に美咲ちゃんって子がいたじゃん?」
「あ、あぁ、確か白いワンピース着てた子だったっけ?」
「そうそう。で、俺あの子にアタックしようと思ってさ。なぁ、お前あの子の事どう思う?」
ほんとにこいつのタイミングの悪さはノーベル賞級だ。
「うーん、ああいうタイプは、初対面の男の前ではおとなしくしてるけど、裏の顔は全然違うってヤツだろ?」
俺の身体の下で、瞳を潤ませながら腰をくねらせている彼女の声が、健二に聞こえないように注意しながら話す。
「えー、そうかぁ? 俺には普段もあのまんまの感じの子に見えたけどなぁ、3人の中でいちばん気が利いてたし・・・・・・」
「ああいう気が利く風なのも、男にそう見えるように分かっててやってるんだよ。お前って女を見る目がないな」
「うーん・・・・・・お前こそ、ちょっと女の子に厳しすぎないか?」
「そんなことないだろ。客観的に評価してるだけだ」
「でも、あの子、顔も俺のタイプなんだよなぁ・・・・・・」
「見た目だけで選ぶのもやめとけ。そういう女はルアーみたいなもんだ。プライドばかり高くて、傲慢で品性のかけらもない女に引っ掛かると、マジでろくな事にならないぞ。」
「ほんとか?」
「ああ、悪い事は言わん。後で後悔するのが嫌なら、あの美咲って子はやめとけ」
「・・・・・・そうか。ま、恋愛経験豊富なお前が言うんだからな・・・・・・分かった、忙しい時に邪魔してすまん。ありがとな。じゃ」
「ああ」
通話を切ってスマートフォンをベッドの端へ放り投げる。
それから、静寂が消えるほどの大きなため息を、ひとつついた。
ずっと力を入れ続けていた右手は、感覚もないほどに痺れている。
俺はその手を、もう息をしていない美咲の首から、そっと離した。
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