雨音

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不意に外から雨音が聞こえ始める。 そうすると、一度は窓から外を眺め、道を見て、空を見上げる。 どんよりとした雲から落ちてくるたくさんの水の滴に、憂鬱と癒しが同時に訪れる。 雨音は好きだ。ささくれ立つ感情を、すうっと落ち着かせてくれる。 雨も嫌いじゃない。草露に撮影心が疼く。 けれど、傘地があなたに顔を隠してしまうから、あなたに会える日も、スカートの裾がハイヒールが濡れてしまうからと、ため息をつく。相合傘は、あなたの肩を濡らす。 それに雨音は、思い出を連れてくる。 あの人と最後に会ったのは、雨の日だった。土砂降りで、お気に入りの靴がぐっしょりとなり、素足まで濡らした。 それは突然だった。別れの言葉も、雨も。 あぁドラマみたいだと思った。誰かの演出で、今ここに立っているのかと思った。カメラは、アングルは、BGMは。 そうだったらどんなにいいだろうと、涙に濡れる顔を傘で隠した。ひとりになったとき、ハンカチを鞄から取り出そうとしてハンドミラーを落とした。ヒビが入り欠けた。そこに映るわたしはとても酷い顔をしていて、なんでなんだろうと、なんでこうなっちゃったんだろうと、酷い顔がますますひどく歪んだ。そして、鏡の破片で小さな傷を指に作った。 雨音は好きだ。 憂鬱を連れてくるけど、癒しも与えてくれる水の滴。 トントン。 ドアを叩く音がする。 「どうぞ」 ゆっくり開くドアからのぞかせ始めるのは、雨のような君。手元には、温かな飲み物。 「雨音が聞こえ始めたから」
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