竜の足音

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「おはようございます」 街に唯一の郵便局は朝からひっきりなしに届く手紙や小包の仕分けで大忙しだ。 そこで働くセキは朝の挨拶とともに荷袋のひとつを抱えて仕分けにとりかかった。 郵便局で一番の花形の仕事はなんと言っても、飛竜に乗って遠くの街へ荷物を届ける遠距離配達員ターカーだ。 セキも自分の飛竜を見つけてターカーになることを誓っている。その思いは日増しに強くなるが、竜を探しに行くことすら今は難しい。 「ああ、降ってきやがった」 ターカーのひとり、ベテランのハシムが相棒の飛竜の背から降りてはしごを降りてきた。今ちょうど局内に戻ってきたばかりで、竜の羽音と少し湿った獣臭さのようなものが一瞬にして局内を埋めつくす。 郵便局の一部は飛竜が出入りできるように大きな天窓が開いている。晴れた日は開け放してあるが、さすがに雨となるとそうもいかない。重い窓を数人がかりで閉じるのに、セキも慌てて加わった。 大粒の雨が局内に降り注ぐのを防ぐようにハシムの飛竜が翼を広げると、その大きさに居合わせた客たちが皆上を見上げて感嘆の声をあげた。 日に何度か出入りしているとはいえ、局員以外の人たちは間近で飛竜を見られる機会はそうそうない。 ハシムは誇らしげに首を垂れた飛竜にご褒美のりんごを与えてその首を撫でている。
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